株主優待バブル、まだ続く?企業のやめるにやめられない理由

トウシル

2019.12.25.(水)

※この記事は2019年12月23日にトウシルサイトで公開されたものです。

目下、株主優待が大人気。トウシルでも特集が組まれていますし、大和インベスター・リレーションズや野村インベスター・リレーションズもWebサイトや書籍で情報を発信しています。

株主優待制度導入企業は年々増加し、直近では1,500社を突破。10年間で約500社が株主優待制度を新たに導入しています。株主優待を楽しみにする方も多いと思いますが、制度上の問題点を指摘する声も増え始めています。

なぜ、株主優待制度を導入する企業が増えているのか?

株主優待制度を導入する企業にとってのメリットは、大まかに、(1)株主ロイヤルティの向上(ファン作り)、(2)安定株主の確保、(3)株主数の増加・維持が挙げられます。

株主ロイヤルティの向上(ファン作り)を図るため、自社製品を配布したり、お店の割引券や施設の入場券、鉄道の乗車券といった自社のサービスを提供するなどの手法があります。株主であると同時に、顧客としても企業のファンになってもらおうという戦略で、株価の上昇や売上増加を期待できます。伝統的な株主優待制度と言えるでしょう。

ところが、最近の株主優待制度では、クオカードなどの金券やカタログギフトなど、自社の製品やサービスとは直接には関係のない株主優待を配布することがブームです。自社のファンを増やすことよりも、安定株主の確保や株主数の増加・維持が目的なので、自社製品・サービスと関係ない株主優待をばらまいて、株主になるよう釣っているという見方もできます。

利益がないのに、優待を出して大丈夫?

安定株主の確保は、持ち合い株式(政策保有株式)解消の流れの中で、新たな株主を探すニーズが高まっていることと関連しています。経営者にとって、株を持ち続けてくれる株主はありがたい存在。欲を言えば、物を言わない株主が増えれば、こんなに楽なことはありません。

安定株主が増えることで敵対的買収が減り、目先の利益にとらわれず、長期的な視点に立って経営ができる可能性はあるものの、株主が経営を監視する機能が薄れ、放漫経営を招くリスクもあります。

また、大口の安定株主さえいれば問題ないかというと、事はそう単純ではありません。上場基準に株主数が規定されているため、株主数を増加・維持する必要があります。具体的には、東証二部上場には800人以上の株主が必要で、東証一部への上場・指定替えには2,200人以上の株主が必要と定められています。

また、せっかく東証一部に上場できても、株主数が2,000人未満になると、東証二部に「格下げ」されてしまいますし、400人未満になると上場廃止になってしまいます(それぞれ猶予期間は1年)。

株主へのサービスのように感じてしまう株主優待制度ですが、必死の上場維持政策として株主優待制度を採用している企業がある可能性も否定できません。あくまで一般論ですが、配当する利益が出ていないのに、株主優待で金券等をばらまいている企業は、事実上、タコ足配当(いわゆるタコ配)をしているのと同じなので、注視した方が良いでしょう。

「プロ」は株主優待が嫌い?

個人に人気で採用する企業が増加している株主優待制度ですが、東京証券取引所「市場構造の在り方等に関する市場関係者からのご意見の概要(2019年5月更新版)」を見ると、市場関係者の評判は良くありません。

○ 株主優待の廃止を求める(コア事業に関係ないものをやめ、個人投資家だけではなく、機関投資家への便益を提供すべき)

○ 現在のように何ら対策なく、株価維持のために金券類を株主優待とすることを放置すべきではない

○ 株主数基準があるために、上場会社は、株主優待などの個人投資家集めに多くのリソースを割いている状況であり、株主数基準については見直しが必要ではないか

と厳しい指摘がされています。

株主優待は海外に郵送されないので、外国人投資家には特に不人気です。そもそも、丸木強、松橋理「近時の株主優待制度の変化と問題」(旬刊商事法務No.2211収録)によると、米国・英国で株主優待制度を採用している企業はそれぞれ8社、22社と極めて少なく、それも自社製品・サービスの提供を行う企業のみだそうです。

法律論から言っても、自社製品・サービスの宣伝になるならともかく、金券等によるタコ配を正当化するのは難しいですし、配当原資があったとしても、換金が容易な金券等が株式数に比例せずに提供されるのであれば、株主平等の原則に反している可能性もあります。株主優待が急速に何でもありのガラパゴス化したため、法整備が追いついていないように見えます。

資本市場制度改革の一環として、東京証券取引所にプライム市場を創設するための議論が行われており、市場のグローバル化の流れの中で、いつまで自社製品・サービスと関係ない金券やカタログギフトなどの株主優待が続けられるか、金融庁・金融審議会や東京証券取引所の動向が気になります。

実は企業も株主優待制度をやめたい?

企業にとって、(1)株主ロイヤルティの向上(ファン作り)、(2)安定株主の確保、(3)株主数の増加・維持が期待できる株主優待制度ですが、メリットだけではなく、それに応じたコストも掛かっています。

株式を2倍保有していても、2倍の株主優待が貰えないことがほとんどなので、株主優待制度を期待する株主は小口(あるいは優待が貰える最低単位の)株主になりがちです。その分、株主優待そのものに掛かる費用や郵送費などがかさみます。

いっそのことやめてしまいたい、と思っても、競合他社や同じような財務状態の他社が同様の株主優待を行っているのに、先に自社がやめてしまうと、「あの会社はケチになった」、「経費削減ということは業況が悪いのかも」などといった悪い評判に繋がりかねず、株価にも影響しかねません。横並びでいた方が安心という意識もあるでしょう。

実はふるさと納税も同じような状況が起きていて、返礼品やシステム・広告にかかるコストを勘案するとあまり収入の増加に繋がっていないけれど、自分の自治体がやめると寄付金が減るだけ。返礼品を地元以外から調達したり、システム・広告を都市圏の企業に委託するケースもあります。地元にお金が落ちないから、本音ではやめたいけど、やめるにやめられないという自治体もあります。

本来はこうした囚人のジレンマのような状況を解消するのが政府の仕事ですが、個人に人気の制度を改正するには、余程の圧力が必要でしょう(株主優待制度の場合は、市場のグローバル化が圧力だと思います)。

最近のネット証券の取引手数料低下を受けて、株主優待制度が株価の変動を大きくする可能性が高まったかもしれません。これまでも、権利付き最終日に向けて株を購入し、権利落ち日に株を売却する動きが見られましたが、株式手数料が下がると、薄い利ザヤでも売買をしやすくなります。株主優待込みの利回りを参考に売買する人が増えた場合、どの程度、市場のかく乱要因になるのか、短期売買をする方は注目されていると思います。

今年は年金2,000万円問題や令和2年度「税制改正大綱」でのiDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)やNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)の制度改定が打ち出されるなど、老後に向けた資産形成に関するニュースが多い年でした。

こうした大きな流れの中、現在のような株主優待制度は長期を見据えた資産形成との親和性が低いという問題もあります。企業の景況感も慎重さを増していますし、株主優待制度が盛り上がりを続けるのか、来年の注目ポイントのひとつではないでしょうか。

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<この記事の著者プロフィール>

【鈴木卓実】
たくみ総合研究所  代表
2003年、慶應義塾大学総合政策学部卒業。日本銀行にて、産業調査、金融機関モニタリング、統計作成等に従事。2018年、たくみ総合研究所を設立。エコノミスト、睡眠健康指導士として、経済や健康に関する個人指導やセミナー等を通じて情報を発信。

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