実際の決算書を読もう「安川電機」

野瀬大樹

2019.12.21.(土)

さて今回も前回同様、優良企業として有名な「安川電機」です。わかりやすいように直近の年度末短信(2019年2月期:2019年4月11日発表)を見てみましょう。

参考:安川電気「2019年2月期  決算短信〔日本基準〕」

まず安川電機という会社は何をやっている会社なのでしょうか?
この年度の短信の「経営成績等の概況」を見る限りは「モーションコントロール」「ロボット」「システムエンジニアリング」などとの記載がありますので、そういったビジネスを展開しているのだろうなとのぼんやりしたイメージは湧くのですが、どうもこれだけだと業界への知識が素人である私たちにはよくわかりません。せめて写真や図解での解説があれば…と思ってしまいます。
そんな時は会社のHPを除いてみると良いでしょう。
上場企業になると当然ある程度の詳細なHPを作っていますし、さらには私たちのような人のためにその会社が取り扱っている製品を詳しく解説しているウェブサイトを丁寧に作っている会社もあります。
安川電機はそういったページが非常に充実している会社の一つなのです。以下のリンクを覗いてみてください。

参照:安川電気「YASUKAWAレポート2019」

こちらには、安川電機のビジネスはもちろん、歴史や社是などが詳しく掲載されています。「経営成績等の概況」を見ても、イマイチその会社のイメージが湧かなかった人はこういったページを頼ってみるのが良いでしょう。

安川電機の「強み」

安川電機は基本的に、スマホを中心とする製造業の製造機械の制御に必要な「モーター&インバータ」を作っています。また工場の無人化に貢献するいわゆる「産業用ロボット」にも強みがあります。そしてそれら「モーター&インバータ」と「産業用ロボット」で概ね売上の8割を占めます(内訳は4割・4割くらい)。

「製造業大国」としての地位は完全に中国の後塵を拝するようになった日本ですが、その製造業を支えるこういった「モーター&インバータ」や「産業用ロボット」はまだまだ世界をリードしており、同様の業種において優良企業で有名なファナックと並びこの安川電機も日本の隠れた「優良企業」なのです。実際株価はこの10年で5倍くらいになっています。

決算書の「気になる点」

さてそんな安川電機なのですが、本コラムは会計のコラムなので決算書BS/PLそしてキャッシュ・フローを見てみましょう。

BS

まずは、BS(貸借対照表)です。

金額としては大きくないですが「商品及び製品」「仕掛品」「原材料及び貯蔵品」、つまり在庫が去年と比べて増えているのは少し気になります。去年の在庫が約1,000億であるのに対し、ことしは約1114億であり約11%増加しています。
生産計画次第では10%程度の在庫の増加はあり得る範囲なのですが、在庫の増加は会社の資金繰りを悪化させますので心の片隅に留めておく程度で良いでしょう。

次に有形固定資産と無形固定資産が増加しています。
どちらも積極的な設備投資やM&Aを行った際に増える項目なので、悪い印象はないです。実際にプレスリリースを見ると従来シーメンスとの合弁会社であった会社の株式を追加購入し子会社としていることが分かります。何か業績の拡大を企図しているのだと思われます。ただこれらは減価償却費の発生を伴う可能性が高いので、損益計算書上の利益を引き下げる可能性がある点は注意が必要です。

PL

次にPL(損益計算書)です。

売上は10%近く増えているのですが、こちら注意が必要です。
前事業年度が2017年3月21日からなのに対して、本年度が2018年3月1日からスタートしています。これは去年に「決算日」の変更が行われているためで、そのため去年のPLの集計期間は20日程度短いことになります。
そう考えると売上の10%程度の増加はある意味「当たり前」であり、それほど喜ぶべきことではありません。

あと売上や利益と比べて特段大きな項目は見当たりませんが、支払利息が少ない点は良い印象かなと思います。実際に短信の1枚目を見ても自己資本比率は軽く5割を超える54.1%であり設備投資が必要な製造業としては優秀な財務体質かと思われます。

また、税金を引く前の利益が541億であり、売上と比較して11%の利益率を確保できている点も抑えておきたいところです。超優良!とまではいかないですが「手堅い利益率」という表現はできると思います。

キャッシュ・フロー

最後にキャッシュ・フローです。

まずは、営業キャッシュ・フロー冒頭の税前利益541億と、営業キャッシュ・フロー328億の差が気になります。主な原因は
・減価償却:+143億
・売上債権:+169億
・仕入債務:△227億
・支払税金:△164億
となります。
BSから見える売上債権の減少が約+58億であり、仕入債務の減少が約△129億であるのとは上記は整合性がとれませんが、トータルすれば、上記は△の58億(+169億-227億)、BSからの推測は△71億(+58億-129億)であるため大きな差異は見受けられません。おそらくは前受金や前払金の存在のため売上債権と仕入債務がテレコになっているのだと思います。
そう考えると営業キャッシュ・フローに特に異常な点は見受けられません。

あとは投資キャッシュ・フローと財務キャッシュ・フローです。
投資キャッシュ・フローの内容は、ほぼ有形固定資産の購入であり、貸借対照表の内容と整合性が取れます。過去のプレスリリースを見ても安川電機は2020年中に北九州に総工費100億円の大きな工場を新設する予定であるのでそれに関する支出も含まれていると予想されます。
また財務キャッシュ・フローのうちの大きな項目はすべて借入金周りか配当であるため気になる点は特にありません。

まとめ PER55という数字をどう見るか

まとめますと、安川電機は日本が世界をまだまだリードしているモーターや工作機械というビジネスモデルから考えるに日本屈指の優良企業です。ただその売上が製造業の設備投資に依存しているため、中国や新興国の景気、特に半導体景気が低迷している今は予断を許さない状態だと考えられます。
BS、PL、キャッシュ・フローをざっと見ても特に問題点は見受けられません。健全な経営状態だと言え、いわゆる「良い会社」です。ただ、逆に言えば面白みがないとも言えます。これは業績予想も同様で四季報を見ても今後2年間において予想売上に大きな伸びは見受けられません。

そう考えると今の安川電機の株価に対してついているPER55というのは、いくら優良企業とは言え少々過大評価な気がします。もちろん、今後の新興国景気の回復によってはドカンと売上が増える可能性はありますが、それでもPER55という数値は世の中の期待が高まりすぎている感がするのです。これは安川電機とよく比較されるファナックも同様で、11月26日時点でそのPERは約69と非常に高くなっています。

世界的な金融緩和であらゆるマネーが投資先を探しているのが今の世界の状態ですが、一時期人気があったIT企業やメディア露出が多い企業ではなく、こういった「隠れた優良企業」に投資が集まりだした傾向をここ数年で感じます。これは投資家のマネーリテラシーの高まりと言えばそうなのですが、今度は逆にそういった「地味な企業」が過大評価されているような傾向も感じます。

婚活パーティーに例えるなら「最近は派手な外銀マンやお医者さんではなくて、手堅い公務員が人気!」とメディアが報道した結果、実際に公務員の人に人気が殺到しているような状態でしょうか。もちろん公務員の方の持つ安定感というのはそれはそれで良いのですが、地方財政の悪化から公務員の方の待遇が昔のイメージより下がっているのもまた事実なのです。

今回の安川電機は間違いなく「良い会社」なのですがその「手堅さ」ゆえに世間の高評価を「すでに」受けているため、投資としてはちょっと魅力的に映らない…というのが正直なところでしょうか。
株価は日経平均全体の上昇も相まって再び上昇トレンドになりましたが、「良い会社の株を買っても儲からない」という典型例になるのではないかと個人的には思います。

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野瀬大樹

公認会計士・税理士。大手監査法人にて会計監査 、株式公開支援、財務調査、内部統制構築業務にかかわる。会計のプロとしての視点から家計のリストラに着手し、支出を1年で50%減らす。さらに自身の労働時間を年間1000時間減らす中で、所得の増加にも成功している。公認会計士協会主催の講習の講師も務め、小中学生に会計とお金の話をわかりやすく伝える授業には定評がある。著書に「20代、お金と仕事について今こそ真剣に考えないとやばいですよ!」(クロスメディア・パブリッシング) 、「自分でできる 個人事業主のための青色申告と節税がわかる本」(ソーテック社)などがある。

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