実際の決算書を読もう「コマツ」

さて今回は優良企業として有名な「コマツ」です。そのコマツの第2四半期の決算書を眺めてみましょう。
資料:2020年3月期 第2四半期決算短信〔米国基準〕(連結)
コマツはショベルカーなど建設機械の世界2位のブランドで、途上国のインフラ投資の拡大とともに業績を伸ばし続けてきた会社です。
コマツの株価は実はこの2年ずっと下落傾向にありました。
2018年の頭に4,500円を記録したのを最後にジリジリ下がり続け、10月中頃には2,600円程度まで下落。さらにこの第二四半期の決算発表10月30日の直後、株価は大きく下落し2,500円になっています。
それは何故なのか?一緒に考えてみましょう。
コマツの株価下落の「短期的理由」
これはこの短信の1ページ目を見れば一目瞭然です。
1ページ目の一番下に書いてありますが、この第二四半期の決算発表のタイミングでコマツは業績予想の下方修正を行っています。詳細な理由は9ページ目(記載ページ番号は6)に記載がありますが、「中国やインドネシアを中心とした戦略市場において需要が想定よりも減速し」たからです。
この業績予想修正により、直前に少し持ち直しつつあったコマツの株価は2,600円から2,500円まで落ち、また持ち直す気配がありません。第一四半期時点での売上や利益の予算消化率は21%~23%程度と、25%を下回っているものの、その差は小さかったので今回の下方修正でびっくりした方は多かったのではないでしょうか。
逆に言えばそれくらい中国・インドネシアでの需要見込み下落が大きかったと判断されたとも言えます。
コマツの株価下落の「長期的理由」
とはいえ、一時期4,500円もあったコマツの株価がこの下方修正前でも2,600円まで落ちているのもまた事実です。今回の100円の下落など実は小さな問題で、投資する立場としてはこのあたりの「長期的理由」つまり長期的トレンドを抑えておきたいところです。
理由はここ2年のコマツの「定性的情報」を確認すればわかるのですが、日本でもよく報道されている「新興国市場の景気停滞」です。
コマツはその製品が建設機械ということもあり、新しい需要の多くが途上国からのものでした。決算説明資料の中の地域別売上(9ページ)を見てみましょう。
中国とアジア地域で売上が驚くほど大きく落ち込んでいるのが分かります。
まだまだ日米欧の「伝統的市場」が売上の半分以上を占めているとは言え、全売上の4割近くを占めていた途上国景気の落ち込みは2年前まで順調だったコマツの株価に大きな打撃を与えました。
一時期コマツは「中国市場に依存しすぎ」と指摘されていたこともあり、その他のアジアやアフリカの売上を積極的に増やしバランスをとった経緯もあるのですが、ここ数年の新興国市場全体の冷え込みのため、そのバランス配分も下落の影響を吸収しきれなかったようです。
ではこの手の地域別の売上の依存度合いはどこを見ればわかるのでしょうか?
それは短信の16ページ(記載ページ番号は13)、から始まる「セグメント情報」に記載されています。
コマツのような世界中で商売をしている大きな会社の場合「売上」が、
・どんな商品から
・どんな地域から
生まれているのかを知りたくなるのが投資家というものです。
そのため短信では「セグメント情報」としてその売上を種類別に記載しているのです。
セグメント情報
コマツの場合、セグメント情報は2つあります。一つは「事業の種類別セグメント情報」、もう一つが「地域別情報」です。
今回は「地域別情報」を見てみましょう。
これを見ると、コマツの地域別売上が、日本・アメリカ・欧州は堅調なのに、中国・アジア・アフリカが驚くほど落ちこんでいるのが分かります。インフラの開発余地が多い途上国において、建設機械の売上推移はある意味景気のバロメーターとも言えます。そんな数値が10~20%程度も落ち込んでいるのですから、ニュースからなんとなく感じている「新興国景気の停滞」がより実感を込めて感じることができるのではないでしょうか?
このセグメント情報は、世界中でいろんなビジネスに関与している大企業の「今置かれている状況」を判断するうえで非常に有用な情報です。
例えばソニーの「売上」だけを見ていてもソニーの置かれている状況はよくわかりませんが、このセグメント情報で「事業別セグメント」を見ることでソニーの利益はもう家電や携帯ではなく、「ゲーム」で稼ぎだされていること、そして「金融」での利益がもはや家電を超えていることが分かります。これは企業の今後10年を占ううえで非常に有用な情報と言えるでしょう。
ソニーの事業別営業利益(第2四半期)
この「セグメント情報」も前回の「業績概要」同様、有用なのになかなか見る人がいない情報です。投資先の情報を判断するうえで一度この「セグメント情報」を意識してみるのはいかがでしょうか?
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野瀬大樹
公認会計士・税理士。大手監査法人にて会計監査 、株式公開支援、財務調査、内部統制構築業務にかかわる。会計のプロとしての視点から家計のリストラに着手し、支出を1年で50%減らす。さらに自身の労働時間を年間1000時間減らす中で、所得の増加にも成功している。公認会計士協会主催の講習の講師も務め、小中学生に会計とお金の話をわかりやすく伝える授業には定評がある。著書に「20代、お金と仕事について今こそ真剣に考えないとやばいですよ!」(クロスメディア・パブリッシング) 、「自分でできる 個人事業主のための青色申告と節税がわかる本」(ソーテック社)などがある。
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