年金を受け取りながら働くと損になるのか?

栗本 大介

2019.02.04.(月)

人生100年時代という言葉を目にする機会が増えました。

これまでのライフプランは、60歳~65歳ごろを退職時期として、その後の生活は老齢年金の受給と退職までに準備した金融資産の取り崩しを中心に収支のバランスを考えるものが一般的でしたが、現役時代(=働く期間)をできる限り長くするという選択肢が今まで以上に注目されています。

その際に「働いて収入を得ると年金がカットされて損になるのではないか?」という質問を受けることがありますが、これは本当なのでしょうか?

在職老齢年金の仕組み

専門家以外にとって「在職老齢年金」は、聞きなれない言葉かもしれません。

「職の在る人の年金」という文字通り、老齢年金の受給と同時に会社等からの収入(以下、報酬と言う)があると、「年金+報酬」の合計額に応じて年金額が減額される仕組みです。

細かい制度内容や計算式は割愛しますが、60歳~64歳の人の場合、1ヶ月当たりに換算した年金額(基本月額)と、働くことによる報酬額の合計が28万円を超えた場合に、超えた金額の2分の1が減額されます。

ここでいう報酬は、正確には「総報酬月額相当額」と呼ばれ、「標準報酬月額+(過去1年間の賞与額÷12)」で計算されます。毎月の報酬が15万円でも、ボーナスが年間60万円あると、計算上の1ヶ月の収入は20万円となるわけです。

この場合、年金月額が8万円(年額96万円)までだと年金+報酬額は28万円以下なので、年金は減額されません。ただし、年金月額が9万円(年額108万円)になると、年金+報酬額が29万円となり、28万円を超えた「1万円の2分の1」である5千円が年金からカットされるのです。

なお、65歳以上になると減額対象となる合計額の基準が変わり、1ヶ月あたりの年金+報酬額が46万円を超えた部分が減額対象となります。

ちなみに、減額対象となるのは厚生年金だけですから、国民年金から受け取る老齢基礎年金は計算に含めません(ほかに、加給年金も除外して考えます)。

また、減額調整の対象となるのは、厚生年金の被保険者として働く人に限られます。

大雑把に言うと、会社などの組織で働いてお給料を得ている人だけです。

逆を言えば、自営業者のように、厚生年金の被保険者にならない場合は、どれだけ収入を得ていても、現状の制度では減額調整されないということです。

働いて収入が増えても損をするわけではない

では、「働いて収入を得ると年金がカットされて損をする」という最初の疑問に戻ってみましょう。実はこの点は誤解の多い部分なのです。

先ほどご紹介した通り、年金が減額されるのは「年金+報酬が一定額を超えた部分の2分の1」です。この一定額は65歳未満の人で28万円、65歳以上の人は46万円でした。

仮に、64歳の時に年金月額が10万円で、総報酬月額相当額が20万円の人がいたとしましょう。合計額は30万円ですから、28万円を超えた2万円の2分の1、すなわち、1万円が減額されます。年金月額10万円から1万円を引くと9万円。

総報酬月額相当額との合計は29万円となります。

一方で、この人が減額を嫌がって総報酬月額相当額を18万円に抑えたとしましょう。

確かに年金のカットはありませんが、そもそもの年金+報酬の合計額は28万円ですから、報酬20万円の人の合計額29万円より、収入は減っています。

つまり、「働いて収入を得ると年金がカットされて損をする」というのは、「年金額のカット」だけに注目すれば事実ですが、世帯収入という面で見ると単なる誤解であり、「働くと損」にはならないのです。

制度の正しい理解と広い視野を持つ重要性

在職老齢年金に関しては、「就労意欲のある高齢者がその能力を社会で発揮できるよう、年金財政に与える影響も考慮しつつ、廃止も含め制度の在り方について検討する」とされています。

考え方や意見は人それぞれですから、制度の良し悪しについての議論はさておき、少なくとも制度を正しく理解すれば、現状でも「働いて収入が増えた分、世帯収入の合計額は増加する」という事実がわかります。

リタイアメントプランを考える際には、「年金のカット」といった狭い部分だけを見るのではなく「収入全体」を見ること、さらには、他の収入や支出も含めたライフプラン全体という広い視野で見ることが重要である点を、この機会に意識してみましょう。

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栗本 大介

株式会社エフピーオアシス代表取締役
CFP®認定者、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、金融知力普及協会認定シニアインストラクター
1971年滋賀県生まれ。立命館大学卒業後、個人的な興味から、大手資格スクール在職中の1995年にFP資格を取得。生命保険会社を経て2001年にFPとして独立。
現在は、共済団体や労働組合、金融機関、大学等を中心に年間100回を超える講演を行うほか、コミュニケーション手法を取り入れた相談実務研修の講師も行っている。18年に及ぶFP講座の講師経験を生かした資格取得のための受験対策講座にも定評があり、「国民総FP化」を目指し、FP知識の普及、啓蒙活動に力を入れている。
また、専門家プロファイルの相談員やメールマガジンの配信を行うほか、テレビやラジオでも活躍中。FPの学習法を中心とした書籍も4冊出版。日経マネーDIGITAL等の専門誌・業界紙でのコラム執筆多数。2010年「金融知識普及功績者」として金融庁と日本銀行から表彰を受けている。
http://fpoasis.jp/

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