「増やす」でも「節約」でもない、「お金のこと」とは?

6年前に亡くなった夫は、流通ジャーナリストでした。

彼は、「値切り」「おトク」「激安」をキーワードに情報発信していましたが、根底には「賢い消費は人生を豊かにする」という信念がありました。

おトクに買えて節約できればそれでいいというわけではない、お金が潤沢にあり欲しいものがなんでも買える生活が幸せというわけでもない。もちろん、それらがハッピーという人もいるでしょう。でも、その人の豊かさ(≒幸せ)は、きっとその人にしかわからない……。お金の使い道を通して、自分の幸せを見つけていってほしいという願いがありました。

贅沢だと尻込みしていた母が補聴器を買った

今年、喜寿(77歳)を迎えた私の母は、大きな決断をしました。補聴器の購入です。幼い頃の中耳炎が原因で、耳の聞こえが決していい方ではなかった母ですが、体の中に異物を入れる感覚が嫌で、補聴器などは使わず、ずっとごまかしながら生きてきました。その母が77歳にして、なぜ補聴器を買おうと決めたのか。理由は、子どもの頃からずっと親しんできた合唱のためです。

「もっと正確に、もっとクリアに音を聴き取りたい。もっと上手くなりたい」。長きに渡って耳の聞こえについて何もしてこなかった母の背中を、この時押したのは、幼い頃から数えれば70年近くも続けてきた合唱への熱い思いでした。

彼女のどこに、そんな思いが秘められていたのか、恥ずかしながら娘の私には最初わかりませんでした。でも、よく考えてみたら、母は前年に、1年ほど悩み続けた結果、歯医者さんの勧めでインプラント治療をしていたのです。

インプラント治療をなぜ1年も悩んでいたのかというと、母は慎ましい生活を送っています。「80歳も近いのに、病気でもあるまいし、入れ歯の調子がちょっと悪いくらいでそんなことにお金を使うなんて…」と、贅沢だと尻込みしていたのでした。

でも、思い切って決断したところ、食事が楽しくなり、そうなると料理をする気もどんどん出てきて、さらに体も元気になってきた。その流れの中で、歳をとり1年ほど中断していた合唱サークルにも出かける気力が戻ってきていたのです。

90分で学べる、定年後の不安を解消したい方必見!

「あと何年生きられるかわからないけれど、自分にお金をかけました」

慎ましく生きてきた母は、80歳近くになり、「余計なことにはお金は使わない。贅沢はしない」という、それまでの消費に対する自分なりの基準を自ら変えました。その結果、日常生活が大きく変わり、心身ともにプラスに転じました。だから次には補聴器を、となったのだと思います。しかも、日常生活に支障のない程度に聞こえるレベルではなく、合唱のためにもっとよく聞こえる上位の機種を選びました。金額にしたら2倍近く違います。

それでも購入を決めたのは、おそらく「経済的にも子どもたちになるべく迷惑をかけたくない」と思ってきたけれど、インプラント治療という“これまでとは違うお金の使い方”をしたところ、心身ともに元気になった。自分自身がいきいきと生きていくことの方が、実は子どもに迷惑をかけないことへの近道なのかもしれない、と気がついたからではないかと思うのです。

「あと何年生きられるかわからないけれど、自分にお金をかけました。前向きに生活を愉しみたいと思います」。送られてきた母からのLINEには、そう書かれていました。

お金の使い道を変えていくタイミングに・・・

病気予防、介護予防も大切ですが、それより前に、「いきいきと暮らす」「生活を楽しむ」こともとても大切だと、母のこの一件を通して認識を改めることになりました。50代の私自身も、人生後半戦に入り、何にお金を使うべきか、お金の使い道を変えていくタイミングに来ているのかもしれません。

ちなみにこの夏、母は白内障の手術をすることになっています。治療にあたり、保険診療と自由診療で手術内容の違いを説明された時、母は「そこまでは要りません」と、迷わず保険診療を選びました。補聴器にはあれほどお金をかけたのに。

歯→耳→目と来て、「いきいきと暮らす」「生活を楽しむ」時に、自分が何を大切にしているのかが、よりはっきりしたようです。

なるほどこういう風にお金を使うのかと、私自身の老後についても参考にさせてもらっています。

【おすすめの記事はこちら】
私の好きな京都、ブームの「座禅」とは?を体験しました

最新記事・限定情報はTwitterで配信中♪

金子稚子(かねこ・わかこ)

終活ジャーナリスト/ライフ・ターミナル・ネットワーク代表。
雑誌・書籍の編集者や広告制作ディレクターとしての経験を生かし、誰もが必ずいつかは迎える「その時」のために、情報提供と心のサポートを行うほか、医療から墓、供養、さらには遺族ケアに至るまで、死の前後に関わるさまざまな事象や取り組み、産業などを精力的に取材。多死社会を目前に控える今、起こるであろう問題について警鐘を鳴らし、情報発信や提言を行っている。また、死別経験者として、当事者の話でありながら、単なる体験談にとどまらない人生の最終段階から臨終、さらに死後・死別後のことまでも分析的に捉えた冷静な語り口は、医療関係者、宗教関係者からも高い評価を得て、各学会や研修会にも講師として登壇。さらに、生命保険等の金融関係、葬儀関係、医療・福祉関係、医薬品などの各種団体・企業に向けてだけでなく、行政、一般向けにも研修や講演活動を行う。人々の死の捉え直しに力を入れ、真の“終活”、すなわちアクティブ・エンディングを提唱。多岐に渡るさまざまな情報提供とともに、私たち自身が自分で「いきかた」を決める必要性を訴えている。
著書に『アクティブ・エンディング〜大人の「終活」新作法〜』(河出書房新社)、『死後のプロデュース』(PHP新書)、『金子哲雄の妻の生き方〜夫を看取った500日〜』(小学館文庫)。編集制作・執筆に『親の看取り〜親が倒れてから、介護・療養・終末期のすべて〜』(e-MOOK 宝島社)等。
一般社団法人日本医療コーディネーター協会顧問。医療法人社団ユメイン野崎クリニック顧問。厚生労働省「人生の最終段階における医療の普及・啓発の在り方に関する検討会」構成員。夫は、2012年10月に他界した流通ジャーナリストの金子哲雄。ライフ・ターミナル・ネットワーク(http://www.ltn288.net)

こんな記事も読まれています

定年後・老後定年後・老後 |  生活生活 |  貯め方貯め方

自分らしくないことにあえてチャレンジ 50代をもっと楽しく する生き方

定年後・老後定年後・老後 |  生活生活 |  貯め方貯め方

幸せ自作人 〜夫の定年後の不安を、幸せに乗り切る

定年後・老後定年後・老後 |  生活生活 |  稼ぎ方稼ぎ方

50代からビジネススキルを磨く-70歳まで稼ぐ力を身につけよう

定年後・老後定年後・老後 |  定年後・老後定年後・老後 |  考え方考え方

50歳からの手術・入院費用、民間の医療保険に入らずに備えるには?

定年後・老後定年後・老後 |  定年後・老後定年後・老後 |  貯め方貯め方

年金が65歳から先延ばしの可能性も? 現在50代前半の男性は必見です

定年後・老後定年後・老後 |  定年後・老後定年後・老後 |  増やし方増やし方

アラフィフおひとりさまが今から準備する老後の収入について