年金が最大で1.8倍に? 年金の給付水準を確保するためのオプションとは

浜田裕也

2019.09.30.(月)

2019年8月27日、厚生労働省から公的年金の財政検証の資料が公表されました。資料の中には「年金の給付水準を確保するために何をすべきか? 」というオプション、いわゆる提案がいくつか記載されていました。そのうちの一つに「就労延長と受給開始時期の選択肢の拡大」というものがあります。今回は「年金の受給開始時期の選択肢の拡大」にスポットをあてて、もし法律が改正されたらどのくらい年金が増えるのか? を試算してみたいと思います。

公的年金を大きく増やす方法。それは繰下げ受給。

65歳から受給できる老齢基礎年金や老齢厚生年金は、繰下げをすることでその金額を増やすことができます。繰下げとは、65歳からもらえる老齢年金をあえてもらわずに、遅らせて受給手続きをすることで増額した年金がもらえるというものです。繰下げは最短でも66歳から、つまり、66歳まで年金をもらうことを我慢しなければなりません。

66歳以降は1カ月単位で繰下げをすることができます。増額率は1カ月あたり0.7%。仮に66歳で繰下げ請求をした場合、0.7%×12カ月=8.4%増額した年金が一生もらえます。現在の法律では最大で70歳まで繰下げができるので、0.7%×60カ月=42%まで増額させることが可能です。

●繰下げ受給の例

千円未満切り捨て
加給年金額、振替加算は繰下げしても増額しない
遺族年金または障がい年金の受給権が発生している人は繰下げができない

上記の図では、老齢基礎年金・老齢厚生年金の両方を繰下げしていますが、どちらか一方だけを繰下げることもできます。つまり「老齢基礎年金は65歳らからもらい、老齢厚生年金のみ繰下げる」や「老齢基礎年金は繰下げて、老齢厚生年金は65歳からもらう」ということができるのです。さらには「老齢基礎年金は70歳繰下げで、老齢厚生年金は68歳繰下げ」という併用も可能です。

年金が最大で約1.8倍に!

現在の法律では最大70歳までしか繰下げができませんが、今回公表された財政検証の資料の中には「繰下げを75歳まで延長させてはどうか? 」というオプション(提案)がありました。そこで、75歳まで繰下げできるようになったらいくらになるのか? を試算してみます。年金額は厚生労働省のモデルケースを参考にして、65歳から老齢基礎年金が78万円、老齢厚生年金が108万円の合計186万円とします。基礎年金と厚生年金の両方を繰下げした場合、金額は以下のようになります。

千円未満は切捨て
繰下げによる増額率はいずれも1月当たり0.7%とする
マクロ経済スライドやその他の年金額の改定は考慮せず

仮に75歳まで繰下げができるようになったとすると、増額率は驚異の84%です。つまり約1.8倍に増やせることになります。なかなかインパクトのある数字ですね。

繰下げは得なのか? 損なのか? 目安は逆転年齢にあり

金額だけを比較すると「繰下げをした方が断然お得なのでは? 」となりそうですが、そうもいかないのが難しいところです。なぜなら次のようなケースも想定できるからです。

「ずっと我慢してやっと繰下げた年金がもらえるようになったのに、思ったよりも早く死んでしまった」もっと悲惨なケースになると「繰下げをしている最中に死んでしまった。結局1円ももらえなかった」なんてことも。

実際の相談現場でも「65歳から受給した場合と繰下げて受給した場合。どっちが得ですか? 」というご質問をよく受けます。年金額の損得だけでいうと「結局どのくらい長生きできたのか? 」ということになります。

言い換えると「どのくらい長生きすればよいのか? その年齢は何歳なのか? 」ということです。この年齢を逆転年齢と言ったりします。

70歳繰下げの場合、逆転年齢は以下のグラフから約82歳とわかります。

加給年金額および振替加算は考慮せず
税金、社会保険料などは考慮せず

70歳繰下げの場合、82歳よりも長生きをすれば繰下げをした方がよかった。82歳よりも前に死んでしまったのであれば、繰下げをせずに65歳からもらっていた方がよかった、ということになります。仮に75歳まで繰下げができるようになった場合、それぞれの逆転年齢は以下のようになります。

加給年金額および振替加算は考慮せず
税金、社会保険料などは考慮せず

75歳繰下げの場合、87歳以上長生きすれば繰下げの方が有利になる可能性が高いです。

なお、繰下げをすると年金額が増えるので、税金や社会保険料(介護保険料、健康保険料や後期高齢者保険料)が増えてしまうことが想定されます。そうなると、逆転年齢はグラフや表の年齢よりももう少し高くなってしまいますのでご注意ください。

繰下げをする場合は「できるだけ長生きをした方がよい」ということになるのですが、自分がどのくらい長生きできるのかは誰にもわかりませんよね。そこで参考データとして平均余命を確認してみることにしましょう。繰下げをするかしないかは65歳の時に決めるので、65歳の平均余命を見てみます。

参照:厚生労働省平成30年簡易生命表の概況」

65歳の平均余命から、男性は約84歳、女性は約89歳まで生きられる可能性が高いということがわかります。もちろん平均余命はあくまでも参考データなので、これより短い人もいれば長い人もいます。何だかんだいっても、結局は「いつまでも元気で長生きをする」ことにつきます。

そのため、普段から食事、睡眠、運動、ストレス解消などに気を配ることも必要かもしれませんね。

まとめ

財政検証の資料の中では、「(繰下げ受給は)給付水準を確保する上でプラス」と記載されています。確かに繰下げをすると年金は大きく増やすことが可能です。しかし、思っていたよりも早く死んでしまうと、やっぱり65歳からもらっていた方がよかったということになってしまいます。また、繰下げしている間は年金がもらえませんから、その間の収入はどうするのか? 貯蓄は足りるのか? 健康状態は良好か? などを総合的にみて判断をする必要があります。

65歳から受給するべきか? 繰り下げ受給をするべきか? これに関しては「こちらが正解」というものはありません。自分だけで決めるのが難しい場合、ファイナンシャルプランナーなどのお金の専門家に相談し、総合的なアドバイスをしてもらうのもよいかもしれません。

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浜田裕也

社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー。社会保険労務士会の業務委託で年金相談の実務にも携わるようになり、その相談件数は年間1,000件を超える。複雑な年金制度の解説や具体的な申請の仕方のアドバイスには定評がある。著書に「日本でいちばん簡単な年金の本」(洋泉社 第3章監修)、「転職したり、フリーランスだったり、離婚を経験した人は知らないと損する、年金の話」(SB新書 監修)がある。

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