潮目が変わったか?いよいよ動き出す為替相場

渋谷 豊

2019.08.19.(月)

7月30日〜31日のFOMCで為替が動き出すかと思いきや、8月1日のトランプ大統領の中国への追加関税といういうツイート砲で為替市場が大きく動き始めました。トランプリスクによる動きなのか、それとも別要因なのか。8月以降の相場はについて考えます。

米国FOMCで政策金利が0.25%引き下げ

2019年7月30日、31日に開かれたFOMCで政策金利が0.25%引き下げられました。この結果を受け多くのコメントは以下のような感じでした。
・パウエル議長が会議後の会見で「長期的な利下げ局面の始まりではない」と発言したために継続的な利下げ期待が後退した。

・今回のFOMCの声明文からわかるようにパウエル議長はややタカ派である。市場参加者とパウエル議長の認識に隔たりがあり次回以降の利下げが確実ではなくなった。

・トランプ大統領はパウエル議長に不満を持っている。しかし、中立的な立場を守りたいFRBはこれからも大統領の介入を上手に避けながら利下げを回避するのではないか。

このような意見が多数を占めました。結果、政策金利の先行きが不透明になったことで米ドルは買い戻しされ一時109.31円まで上昇しました。これまでの1カ月の間、米ドルのマイナス要因であった過度な利下げ見通しに修正が入り、利下げは長期化しないであろうという思惑からドル高に向かっていきました。しかし、翌日の1日深夜にトランプ大統領が中国への制裁関税第4弾をツイッターでコメントすると相場は一転。米中対立の深刻化でFOMCは追加利下げに追い込まれるとの見方からドル円は下落に転じ8月5日には105円台まで急落しました。

さて、この流れだけを見ていると、「パウエル議長はハト派でなかったが、トランプ大統領の発言をきつかけに貿易戦争が悪化しそうでドルが安くなった」と解釈されそうですが本当でしょうか。これだけをみているとトランプ発言が今後修正されたり閣僚級会談が始まればドル安が止まるとも言えるわけです。これではあまりにもゴシップ的な投資になります。実はこれ以外に今回のFOMCにはドル安の要因がありました。

さかのぼること今から約20日前。パウエル議長は7月10日に下院金融サービス委員会で議会証言しています。そこでは、貿易摩擦などにより先行き不安や世界経済の弱体化が米景気見通しの重しになるという認識を示していました。また、その際は、景気拡大下支えに向けて適切に行動する用意があるとコメントしていました。この議会証言を受け、政策金利の引き下げが行われることは広くコンセンサスとなりましたが、一部のコメントではFRBは現在進めているバランスシートの縮小を7月末の会合で停止する可能性があると指摘していましたが、あまり注目度や確度は高くありませんでした。ただし、これが実現すれば、経済的な効果としては、今まで買い入れた長期債券の償還分は再投資されることになり、市場から再び米国債を買うことを通じて長期金利の一段と低下する。その結果、徐々に日米長期金利格差が縮小することによるドルの価値が減価する可能性が高まっていました。

このようにバランスシートの縮小についてはあまり話題性が低いままFOMCを迎え、実際のFOMCでは9月末に終了を予定していたバランスシートの縮小を、2カ月前倒しして8月1日で終了することを決定しました。これを受けた市場の反応を振り返ると、発表後は米国債市場では政策金利の動向を反映する傾向が強いとされる2年など短期の利回りが上昇しました。一方で、長期は、バランスシートの縮小停止を意識して利回りが低下。短期金利と長期金利はかなり対称的な動きとなりました。その結果、発表直後は短期金利の動きに追随し、しばらく経過してから冷静に長期金利に追随したと見ることが正しいように思います。

為替や株価の変動要因をトランプ大統領の発言に求める限界

ここ数年、株価や為替の大幅な変動要因をトランプ発言に理由を求める傾向があまりにも強まっているように感じます。当然、米国大統領の発言は、世界の要人発言の中で最重要視されるものであり無視できません。市場関係者も大いに注目していることから、それ自体に間違いはありませんが、しかし、あまりゴシップ的にトランプ大統領の発言のみを捉えているとその裏に隠れている大きな相場の転換点を見逃す可能性があります。

先日、過去の米利下げ局面におけるドル円相場のレポートをみかけました。米国では、1989年以降、1989年6月5日、1995年7月6日、1998年9月29日、2001年1月3日、2007年9月18日と過去5回利下げが行われました。しかし、その後のドル円の動きに法則性はありませんでした。つまり、ドル安とドル高が混在していたのです。そこに一番の影響があったのはその時の経済情勢。つまり、私たちは過去30年でたった6回目になる米国の利下げを目の当たりにして、あらためてやるべきことは経済状況を見極めることなのです。

今回のドル円の動きは、さもトランプ発言に誘発されたように捉えられています。しかし、その裏で、1)先日発表された米国の貿易収支統計における貿易額や赤字額には米中の貿易戦争の影響はさほど見えない、2)雇用者数が前年比ベースで見ても若干下落しているものの大幅に悪化している状況ではない、などがここ数日間で発表されています。この内容だけを見ていると決して9月に利下げが確実とは言えない状況です。

このようにFRBの金融政策が経済の堅調さを受けて引き続きやや慎重に利下げを行うのか、それとも市場フレンドリーにハト派的判断をするのか、米国の長短金利を日々定点観測をしていく必要があります。今回の為替動向から、ここに為替市場のヒントがあるのが間違いありません。

最後に、今回のドル安はバランスシートの縮小が前倒しに終了されたことで今後も長期金利が下がっていく可能性が高くなりました。このような小さな変調が経済のバランスを崩すことがあります。また、グローバルな資金の流れを大きく変えることもあります。例えば、レパトリエーションの加速や本邦勢の外貨ヘッジの増加など。もし今回をきっかけに長期の景気拡大を支えてきた低金利政策と安定した為替レートが動き出すとなれば、ボラティリティの上昇と資産価格の振れ幅の増加を意味しています。これはかなり高い確率で相場の転換点になることは歴史が証明しています。また、日本のお盆時期は商いが薄くボラティリティが高く、仕掛け的な動きがあることも要注意です。

いずれにしろ相場の動きが出て、日頃の鍛錬が試される相場になりました。きちんと準備して臨みましょう。

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渋谷 豊

ファイナンシャルアカデミー総研代表 、ファイナンシャルアカデミー取締役
シティバンク、ソシエテ・ジェネラルのプライベートバンク部門で約13年に渡り富裕層向けサービスを経験し、独立系の資産運用会社で約2年間、資産運用業務に携わる。現在は、ファイナンシャルアカデミーで取締役を務める傍ら、富裕層向けサービスと海外勤務の経験などを活かした、グルーバル経済に関する分析・情報の発信や様々なコンサルティング・アドバイスを行っている。慶応義塾大学大学院経営管理研究科(MBA)修了。
ファイナンシャルアカデミーグループ総研 http://fagri.jp/
ファイナンシャルアカデミー http://www.f-academy.jp/

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