退職後に必要な資金は自分自身で計算する

栗本 大介

2019.08.04.(日)

金融審議会のレポートをきっかけに、老後に必要な自助努力の金額として「2,000万円」という数字が独り歩きしています。レポートでも触れられているとおり、退職後の生活に必要な資金は人それぞれですから、2,000万円という数字だけを見るのではなく考え方を理解し、一人ひとりが自分に必要な金額を計算できるようになることが大切なのです。

話題になることを狙った報じ方

2019年6月3日に金融審議会のワーキンググループが公表した「高齢社会における資産形成・管理」のレポートは、本来の趣旨とは違う面で大きな話題になりました。

このレポートは、タイトル通り、将来に備えた資産形成の大切さと、高齢期における資産管理の課題について触れているものです。約40ページにわたる本文は、「はじめに」の中で触れられている通り、
「個々人 においては『人生 100 年時代』に備えた資産形成や管理に取り組んでいくこと、金融サービス提供者においてはこうした社会的変化に適切に対応していくとともに、それに沿った金融商品・金融サービスを提供することがかつてないほど要請されている。」
というもので、各人の自助努力の必要性と、金融機関のサービス提供のあり方について述べられている、極めて有用性の高い内容です。それにもかかわらず、レポート公表後に一部分を切り取った批判の声が上がると、それをメディアが繰り返し報道したため、一気に拡散されることとなりました。特に、「2,000万円赤字と今さら言われても、いったいどうすればいいのか?」という老後資金の不足問題は多くの人の関心を集めたようです。

老後に必要な資金の根拠を確認する

老後に必要となる資金は本当のところいくらなのでしょうか?
そもそも何歳からを「老後」と呼ぶのかは人によって違いますが、ここでは、老齢年金の受給開始年齢である65歳以降を「老後」と定義します。また、老後期間はその人の寿命によって異なるため、ここでは「65歳時の平均余命」を基準とします。2017年の簡易生命表によると、65歳時点の平均余命は、男性が19.57年で女性は24.43年。ここから単純に考えると、男性は84歳~85歳、女性は89歳~90歳を想定しておけばよいというわけです。

総務省の家計調査によると、高齢夫婦無職世帯の消費支出は235,615円。税金や社会保険料等の非消費支出が29,092円なので、合計約26万円になります。高齢単身無職世帯の場合、消費支出の149,603円と非消費支出の12,392円を合わせて約16万円です。ここでは、同い年の夫婦を例に、65歳からの19年間は夫婦2人、その後5年間は単身と考えて計算しましょう。

夫婦の期間:約26万円×12ヶ月×19年=5,928万円
単身の期間:約16万円×12ヶ月×5年=960万円
合計6,888万円です。

支出の中には「保健医療」も含まれているため、万が一に備えての金額は別途考えないこととします。一方で「住居費」は1.3万~1.8万円しか見込まれていないので、家賃負担のある人は差額を上乗せする必要があるでしょう。また、持ち家の場合は修繕費等の負担など、毎月の消費支出に現れない出費も出てきます。仮に家賃を5万円で見込み、住居費の上乗せ分約3.5万円を計上すると、必要額の合計は24年間で1,000万円ほどプラスとなるため、先ほどの6,888万円ではなく、7,888万円で考えることにしましょう。

自助努力で貯める金額は自分自身で計算するもの

この金額をすべて自分で準備しないとダメかといえば、そんなことはなく、まずは公的年金からの収入があります。年金受取額は、退職までの年金加入状況によって全く違います。ご自身の年金額は、毎年の誕生日に届く「ねんきん定期便」や、日本年金機構が実施している「ねんきんネット」で確認するのが一番ですが、ここでは、総務省の統計数値を使います。

先ほどの家計調査の収入項目によると、高齢夫婦無職世帯の社会保障給付は203,824円、高齢単身無職世帯の社会保障給付は115,059円です。社会保障給付ですから、必ずしも年金による収入だけではないのですが、とりあえずこの金額を「年金による収入」と考えた上で、生活費と同様に2人の期間と1人の期間で考えると、

夫婦の期間:約20万円×12ヶ月×19年=4,560万円
単身の期間:約12万円×12ヶ月×5年=720万円
合計5,280万円です。

この時点で差し引き2,608万円ですから、話題となったレポートで指摘された2,000万円より多めの資金不足が発生する計算となります。ここで大切なのは、金額そのものではなく、計算過程です。計算の結果、不足額は1,000万円の人もいれば、3,000万円の人もいるでしょう。

さて、自分にとっての不足額が明確になれば、あとは「現実的に準備できるかどうか」の問題です。
お勤めの方で、退職金を見込めるのであればその金額を差し引きます。仮に2,000万円不足となった人が1,000万円の退職金を見込めるのであれば、自分で用意するべき金額は1,000万円。金額だけを見ると準備のハードルは高く感じたとしても、それだけで悲観する必要はありません。

仮に、55歳までは子どもの教育費負担などもあって貯蓄が難しいとしても、そこからの10年で一気に貯めるプランも考えられるからです。学費等で年100万円の支出があった場合、それを貯蓄に回せば10年で1,000万円の貯蓄達成が現実的となります。つまり、必要な目標額は、まんべんなく積み立てていくだけでなく、家族構成などを見ながら、「貯め時」にしっかり貯められる計画を立てればよいのです。

老後に必要なお金はいくらか?という質問について、万人に共通する答えはありませんが、報道される数字に踊らされることなく、自分のこれからの生活を想像し、具体的な金額に落とし込んでいく冷静な態度が大切なのです。

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栗本 大介

株式会社エフピーオアシス代表取締役
CFP®認定者、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、金融知力普及協会認定シニアインストラクター
1971年滋賀県生まれ。立命館大学卒業後、個人的な興味から、大手資格スクール在職中の1995年にFP資格を取得。生命保険会社を経て2001年にFPとして独立。
現在は、共済団体や労働組合、金融機関、大学等を中心に年間100回を超える講演を行うほか、コミュニケーション手法を取り入れた相談実務研修の講師も行っている。18年に及ぶFP講座の講師経験を生かした資格取得のための受験対策講座にも定評があり、「国民総FP化」を目指し、FP知識の普及、啓蒙活動に力を入れている。
また、専門家プロファイルの相談員やメールマガジンの配信を行うほか、テレビやラジオでも活躍中。FPの学習法を中心とした書籍も4冊出版。日経マネーDIGITAL等の専門誌・業界紙でのコラム執筆多数。2010年「金融知識普及功績者」として金融庁と日本銀行から表彰を受けている。
http://fpoasis.jp/

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