ソフトバンクのIPOをどう見るか

伊藤英佑

2018.12.14.(金)

2018年12月19日にソフトバンクが超大型IPOをします。(購入申込期間は12月11日(火)~14日(金))

ソフトバンクという会社については改めて説明する必要はないかと思いますが、孫正義氏率いるソフトバンクグループ(SBG)は、10兆円の資金をベンチャー投資する「ビジョン・ファンド」に注力しており、通信会社のソフトバンクはグループ会社として残しながらも別に上場させることで、市場への売り出し総額である2.6兆円もの巨額に上る資金をSBGは得ることになります。

本件IPOはSBGによる売出のみのため通信子会社ソフトバンク自身が得る資金はありません。ソフトバンク株式の想定売出価格は1株1500円で売買単位は100株。公開価格での時価総額は実に約7兆1,800億円になります。

親子上場の論点等もありますが、ここでは、個人投資家視点からソフトバンクをどのように見るかという観点からポイントを押さえてみたいと思います。

携帯キャリアとして抜群の知名度と異例のテレビCMによるIPOの周知

売出総額2.6兆円と異例の超巨額IPOながらも、知名度と話題性とが相まって、利回り志向の強い個人の人気を集め個人投資家の資金を吸収していると報道されています。

私自身の周りでも、この1ヶ月ほどの間で証券・金融関係者と話をすれば必ず話題に上りますし、居酒屋でも隣からソフトバンクのIPOの話題が聞こえてくる有様ですから、世間の関心の高さが窺えます。

特に個人投資家にとっては、よく知られていることイコール株を買ってみようと思う人が増えることを意味し、買ってみようと思う人の中から実際に買う人が出てくるわけですから、知名度が高く注目されているという点は株式需給の関係からはプラスに作用すると考えられるのでしょう。

押しは高配当利回り

ソフトバンク株の魅力として言われている点は配当利回り5.0%という配当利回りの高さです(公開価格1,500円に対して当期通期配当見込75円)。

携帯通信ビジネスは顧客から継続・安定的に通信料収入が入る業態なので、収益性は安定していて見えやすい業態と言えるでしょう。

配当の原資は当期純利益ですから、ソフトバンクが安定的に同水準かそれ以上の当期純利益を上げ続け、将来的にも同水準の配当が維持されることが期待できるのであれば、5.0%という配当利回りは確かに一見魅力的には見えます。

当期純利益は全てが株主に帰属する利益であり、単純なファイナンス理論では配当が多いか少ないかは株式価値に中立(影響なし)と言われていますが、現実的には多くの場合では配当を上げると株価が上がります。投資家は投資成果として将来のキャッシュインよりも目の前でのキャッシュインの方が嬉しいからとか、配当を減らすことは投資家の失望を招きやすいことから経営者は配当を減らしたくない気持ちがあるので高配当は経営者の業績見通しへの自信の表れとか株主利益に対する意識が高いと評価されることだとかが理由とされます。

一方、配当自体は、当期純利益の範囲内で企業が決めでコントロールできるものでもあり、本来「配当利回り」という指標は参考指標の1つ程度で、株式投資で全面的に評価材料とされるものではないでしょう。辛口な意見では、PER等では割高な設定であるため配当利回りしかプッシュする材料がないとも言われています。

通信大手他社との株価指標比較

下記は、ソフトバンクと、国内携帯キャリア大手のNTTドコモとKDDIとの業績の比較表です。

PERを見るとソフトバンクは17.1倍で、NTTドコモの13.8倍やKDDIの10.2倍よりもだいぶ高い水準です。
一方で、ソフトバンクは「純利益に対する連結配当性向85%程度を目安に、安定的な1株当たり配当の実施を目指します」と目論見書で語っており、かなり高い配当性向でもって高い配当利回りを確保しています。ソフトバンクの配当政策は重要ですので、目論見書での配当政策の記述については文末に掲載しています。

高いPERを正当化するには高い業績成長期待が裏付けにないといけません。売上や利益規模でNTTドコモやKDDIよりも劣っているソフトバンクですが、当期純利益を事業への再投資よりも配当に回しながらも、高い成長期待を幹事証券会社から受けていると見ることが出来ます。ソフトバンクは、「ソフトバンクグループおよびその投資先との協働により、少ない資金で投資効率の高い事業展開を行えるため、高い株主還元と成長投資の両立が可能である」と説明しており、SBGのビジョン・ファンドの投資先との協業によるビジネスチャンスに言及しています。例えばSBG投資先である米国のWeWorkとジョイントベンチャーを設立し、ワーキングスペースをオープンさせています。

通信大手他社との財務体力比較

次に、大まかに、フリーキャッシュフローの水準と、純有利子負債、自己資本比率を見てみます。

フリーキャッシュフローの水準、手元キャッシュの余裕度、自己資本比率において、現時点では、NTTドコモ>KDDI>ソフトバンクの順に軍配が上がります。こうして見るとNTTドコモが圧倒的に優良企業であることが見て取れるくらいです。

フリーキャッシュフローが年間約1000億円程度の水準に見えますが、2018年3月期はSBGからソフトバンクブランドの商標利用権3,500億円で取得し、2018年4-9月期はヤフー株式の追加取得があります。目論見書内で、このような一時的な支出を除いた調整後フリーキャッシュフローは、2018年3月期は5,105億円、2018年4-9月期は1,258億円と開示説明がされています。

ソフトバンクの当期利益水準での配当支払い総額は3,590億円が見込まれます。フリーキャッシュフローが借入の返済や配当支払いの原資と考えると、有利子負債も他社と比較して圧倒的に多い中で、配当支払い3,590億円を維持するのは、楽ではなさそうに見えます。もっとも、配当性向85%が配当政策なので、定額を維持する方針ではなくその時の利益水準に応じて配当する方針ではありますが。

次世代通信規格の5Gネットワークの構築も必要ですし(ホームページのソフトバンク事業戦略では、「5G関連の投資を含めても現在の年間4,000億円以下の水準を維持できると見込んでいます」と説明されています)、通信会社は一定規模の設備投資が通信環境や競争力の維持向上に不可欠ですから、もしも今後の競争力が減退していくようなことがあり、利益水準が落ち込むことがあると当期純利益の85%を配当に回しても配当水準が低下してしまう、もしくは配当性向85%の維持が難しくなるかもしれません。

IPOの成否はいかに

官房長官の携帯料金値下げ余地発言、大規模通信障害やファーウェイ問題、株式市場の地合いが良くないという悪環境もあり、逆風下でのIPOとも言えるでしょう。
最終的にはブックビルディング期間中に集まった応募は売り出し株数の2倍前後になったとの観測が出ています。近年の大型案件での日本郵政グループのブックビルディング応募倍率と初値騰落率は、日本郵政 5倍 +16.5%、かんぽ生命 15倍 +33.14%、ゆうちょ 5倍 +15.86%となっているようです。

日本の株式市場の歴史に残る超大型IPOの成否が注目されます。

参考:ソフトバンクの配当政策について(目論見書p79より)
当社では、中長期的に企業価値を高めるとともに、株主の皆様に利益を還元していくことを重要な経営課題の一つとして位置付けています。配当については、安定性・継続性に配慮しつつ、業績動向、財務状況および配当性向等を総合的に勘案して実施していく方針です。
上記方針の下、純利益に対する連結配当性向85%程度を目安に、安定的な1株当たり配当の実施を目指します。
内部留保資金については、今後の企業としての成長と、財務基盤の安定のバランスを鑑みながら、有利子負債の返済、設備投資、M&A等の投資等に充当していきます。

当社グループは、ソフトバンクグループおよびその投資先との協働により、少ない資金で投資効率の高い事業展開を行えるため、高い株主還元と成長投資の両立が可能であると考えています。
当社は、中間配当および期末配当のほか、基準日を定めて剰余金の配当を行うことができる旨、および剰余金の配当等会社法第459条第1項各号に定める事項については、法令に別段の定めがある場合を除き、取締役会の決議により定めることができる旨を定款に定めています。当社の剰余金の配当は、中間配当および期末配当の年2回を基本的な方針としています。
なお、2019年3月期の期末配当については、株式上場から当該期末配当の基準日までの期間を勘案し、連結配当性向85%の2分の1程度を目安として期末配当金額を決定する方針です。

*本文中の数値は正確性を保障するものではありません。
*本文は投資判断を提供することを企図したものでは一切ありません。

なんとなく「勘」で株の売買をしている人にオススメ!

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伊藤英佑

伊藤会計事務所代表/早稲田大学政治経済学部卒。早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了、AFP(ファイナンシャルプランナー)保有。 大手監査法人を経て、2005年 伊藤会計事務所開業(現任)、ベンチャー企業の支援業務及び資産管理サービスを行う。複数のベンチャー企業の非常勤・社外役員も歴任。資本政策、IPO、M&Aに強い。資産管理サービスは、相続税・法人税・所得税等の税金対策及び税務申告、資産活用全般やライフプラン向上を見据えた総合的なコンサルティングやフィナンシャルサービス等を個人・法人へ提供している。 長期分散投資を志向した資産運用も自ら行っており長年の経験がある。https://cl-souzoku-tokyo.com/

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