起業家にすり寄り、吸い取る人々 -法律家のサポートが必要なわけ-

波戸岡光太

2017.10.27.(金)

「こんにちは!よろしく!パートナーになれてうれしいよ!これから下支えしていくからね!」

Tさんが起業して会社を立ち上げ1年がたち、ビジネスがいい具合に伸びる兆しを見せ始めた頃、知人に紹介されて出会ったのが、さわやかな身なりで愛嬌たっぷりのK氏でした。

もっとビジネスを成長させたい、自分のビジネスにテコ入れしたいと思っていたTさんにとって、渡りに船、グッドタイミングで現れたのがKさんでした。

やはり人の縁って大事だな、がんばれば助っ人は現れるものなんだなと、Tさんはうれしくて仕方ありませんでした。

K氏はいつも自信たっぷりに話してくれます。

「これからは予測不可能な時代。AI革命の中でどう生き残りを図るか。日本なんて狭すぎる。いまはアジアが熱い。だから現金をシンガポールに預けておこう。いざってときに役に立つ。」

そう言われて、Tさんは安心して現金100万円をK氏に手渡しました。
「俺の稼いだお金よ。しっかり働いてきてくれよ」なんてお金に声をかけたりして。

K氏の話は続きます。
「あと、俺もTさんのビジネスに関わるからには本気でやるよ。覚悟を決めたっていう証に、Tさんの持ってる自社株のうち、4割を俺に持たせてくれないか。

覚悟を決めたなんて、嬉しいじゃないか。Tさんは迷うことなく株式譲渡契約書にサインをして、自社株の4割をK氏に売り渡しました。

 

……それから3か月。

Tさんは違和感の続く毎日を送っています。

K氏の言動が気になってしょうがない。

新しいことをやろうとしても、いつもK氏は口をはさんでくる。

顧客対応がなっていない、ビジネスセンスがないと、上から目線で叱られる。

さらに、最近始まった経営会議と称する定例ミーティングでは、K氏のパワーパートナーとかいうM氏も同席するようになった。会議は彼らのペースで進められ、Tさんは、はいはいと返事をするだけだ。

この度M氏とも顧問契約を結ぶことになり、売上の10%をコンサル料として毎月払っていくことになった。

違和感は強くなる一方です。やがてTさんは仕事に集中する意欲もそがれてきました。

「いや、待てよ。そもそもこの会社は僕の会社じゃないか。だったら渡した株も返してもらおう。100万円だって預けているだけだから返してもらおう。」

そう意を決したTさんは、次の経営会議で、思い切ってK氏に株と現金の返還を求めてみました。

それに対するK氏の答えは、実にあっさりしたものでした。

「100万円?あれはシンガポールの長期運用にあててるから、いま解約なんかできないよ。どうしてもと言うのなら解約できないこともないけど、いま解約すると手数料で100万円かかるから差し引きゼロだけど……
「あと、株の買戻しとかあり得ないから。ちょっと勘違いしてんじゃないの?」

Tさんは返す言葉がありませんでした……。

「この先、いつまで首根っこ押さえられ続けるんだ……。」

このように、ビジネスがいい兆しを見せ始め、自分に自信を持ち始めた頃に、新しい仲間にまぎれて、あなたにすり寄り、あなたからうまみを吸い取ろうという輩が現れ始めます。

いい人とそうでない人との区別は、たしかに難しいです。

でも、「現金の受け渡し」と「株の譲渡」だけは、本当に気をつけてください。
現金のやりとりでは、受け渡しの証拠が残りません。
オレオレ詐欺と同じですが、証拠の残らない現金でのやり取りは避けたいところです。

株の譲渡や売り渡しはもってのほかです。
株はいわば会社に対する所有権です。自分で立ち上げた会社ならば、会社は我が子のように愛しい存在でしょう。自社株はいわば自分の身体の一部とすらいえます。それをやすやすと他人に渡してはなりません。

自分の周りの人を信じ愛するのは、起業家の在り方として正しく美しいと私は思います。
そんな優れた経営者を私は多く知り、尊敬し、日々サポートしています。

けれど、それと同じように、会社を大事にしてほしい、稼いだお金を大事にしてほしいと思っています。
すり寄り吸い取る人、会社経営からシャットアウトすべき人は、残念ながら、たしかにあなたの近くにもいるのです。

ぜひ会社の成長に伴い、弁護士や税理士といった専門家のパートナーを見つけてください。

法律の専門家は「何かあった時」のためだけにいるのではありません。お金を渡す前に、株式譲渡契約書にサインをする前に、およそ物事を決断する前に相談することで、「トラブル予防」という大切な事前対策をすることができます。

今回は、起業にあたっての注意点と法律家のサポートを得るメリットをお伝えしました。

【前回の記事はこちら】
お金を預けた相手が逮捕! なのにお金は戻らない? (刑事と民事の壁)

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波戸岡光太

弁護士(アクト法律事務所)。「困っている人を助けたい」-少年時代からの熱い思いを胸に、2007年に弁護士となる。経営者とビジネスパーソンをもりたてるパートナーとして、契約トラブルや債権回収問題の予防・解決を中心に取り組む。
経営者向けコーチングスキルも兼ね備え、依頼者と伴走しつねに最高の解決を目指す。
東京都港区赤坂3-9-18赤坂見附KITAYAMAビル3階
http://www.hatooka.jp

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