終わらない不動産相続問題

波戸岡光太

2017.05.26.(金)

「…いつまでやるんですか…」

ある遺産分割の裁判が始まってから、もうかれこれ3年以上がたっていました。
それでも当事者同士の応酬は終わる気配を見せません。
そんなとき、家庭裁判所の調停室で、ぼそっとつぶやいた裁判官のせりふが「いつまでやるんですか」でした。

その言葉に当事者同士もすこし我に返った面があったようです。
自分たちで決着をつけなければという思いが一致し、片方が不動産を取得し、片方が現金預金を取得し、この相続問題はようやく解決に至りました。

相続問題では、亡くなった方の遺言書があれば、その通りに遺産配分が行われるのが通常です。
ところが、遺言書がないと、民法の定める相続分をもとに、相続人たちが話し合って遺産の分け方を決めなければなりません。

遺産の分け方の理屈はいたってシンプルです。
「公平に分けましょう」です。
ところが、この「公平」という言葉が実はクセモノです。相続人同士が、それぞれ「公平」と「公平」の名のもとにぶつかり合い、対立を深め、解決を遠のかせます。もちろん民法に相続分の定めはありますが、そこでも「2分の1」とか「3分の1」といった公平と考えられる割合が定められているだけです。

例えば相続人が子ども二人の場合

長男は、家業を継ぎ、実家で親と暮らして見守りを続け、老後の介護では献身的な療養看護に努めてきました。仕事と家庭と介護を両立させる暮らしは本当にきつかったです。長男としては「次男なんてたまに実家に様子を見に来ただけじゃないか」と思ってしまいます。

他方、次男は、実家を離れ、賃貸マンションで仕送りもなく暮らし、やがて住宅ローンを抱えて自宅を購入。家業とは違い安定した職などなく、リストラの不安の中で家族を支えてきました。次男としては「実家でぬくぬく暮らす長男はそんな不安を抱えたことなんかないんじゃないか」と思ってしまいます。

「兄弟仲良くやれよ。信頼しているから」というのが父のメッセージだったのでしょうか、
その後、父は遺言書を残さずに他界しました。
さて、残された二人にとって、遺産の「公平」な分け方とは何なのでしょうか。

長男は「なんで次男にまるまる半分も渡さなければならないんだ。親の面倒をみてこなかった彼にそんなに持っていかれるなんて公平ではない」と思い、
次男は「なんで長男が実家の不動産まる取りなんだ。楽をしてきた彼がそんなに持っていくなんて公平ではない」と考えます。

どちらも自分だけ多くもらおうとなんて思っていません。
「公平」な分け方を希望しているだけです。

しかし、公平な分け方を追い求めるほど、二人の亀裂は深まります。
さらに、生前のお金の動きをめぐって、「あの時父からもらったお金は何に使ったんだ」「いやお前だってあの時援助してもらったじゃないか」「いやいやもっと他にも遺産があるはずだ」などと始まると、過去の預金通帳の履歴にさかのぼったり、財産調査をおこなったりと、それこそきりがありません。

「公平な解決」を求めるほど解決が遠のいてしまうという、この矛盾あるいはジレンマを解きほぐさなければならないのが、相続問題の難しいところです。
職業専門家である裁判官ですら、冒頭のせりふをつぶやいてしまうのもわからないでもありません。

なので、どうか、いつかお亡くなりになる人は、「遺言書」を作っておいてほしいです。
なによりも一番大切な、この世を旅立つ人自身が「公平」をどう考えているのか、しっかり相続人に示してほしいのです。
そして、いつか相続人となりうる人は、ぜひ、「あなたの公平でフェアな考えを残してほしい」と被相続人に伝え、遺言書の作成を勧めてほしいと思います。
そうすることで、受け継ぐべき財産をしっかり守ることができ、相続人間の争いも大幅に減らすことができます。
自分で稼ぐ財産も大切ですが、親から引き継ぐ財産も、親の想いと共に、しっかり守ってあげたいです。

次回の記事はこちら▶『なぜ、私に払う義務があるの? 〜サインとハンコと人間関係〜』
前回の記事はこちら▶『投資話と詐欺話はどう見分ければよいのか』

波戸岡光太

弁護士。アクト法律事務所。
「困っている人を助けたい」-少年時代からの熱い思いを胸に、2007年に弁護士となる。経営者とビジネスパーソンをもりたてるパートナーとして、契約トラブルや債権回収問題の予防・解決を中心に取り組む。
経営者向けコーチングスキルも兼ね備え、依頼者と伴走しつねに最高の解決を目指す。
東京都港区赤坂3-9-18赤坂見附KITAYAMAビル5階
http://www.hatooka.jp

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